お手軽文学散歩　第２２話「ドストエフスキー「罪と罰」について（最終話）」

第２２話　ドストエフスキー「罪と罰」について（最終話）

エピローグ

《シベリア。荒涼とした大河の岸に一つの町がある。この町に要塞があって、要塞の中に監獄がある。この監獄の中にラスコーリニコフが十ヶ月前から収容されていた。犯行の日からほぼ一年半が流れていた。》

ラスコーリニコフは、裁判で、リザヴェータを殺した謎、二人がドアを叩いたこと、ペンキ塗りのミコルカ達の騒ぎを聞いたこと、そしてどんな風に階段を下り、空室に隠れ、家に帰ったか、犯行の全過程を正確に明瞭に詳しく陳述しています。
彼の供述どおり、石の下から盗品が出てきました。財布の中には、三百七十ルーブルの紙幣と二十カペイカ銀貨三個が入っていました。検事や裁判官達は、彼が盗んだ品物をよく覚えていないばかりか、財布の中身を全く知らなかったことに驚きます。医師のゾシーモフ、学友達、下宿の主人や女中の証言からも彼がヒポコンデリー症状（憂鬱症）にあったと認められました。しかし、彼を弁護する人たちを困らせたのは、彼が一切自分自身を弁護しようとしなかったことでした。彼は、実に明瞭に、乱暴に、一切の原因は彼の悲惨な貧しい境遇であり、老婆を殺して少なくとも三千ルーブル奪えば、出世の第一歩が踏めると思ったからだ、彼が自首したのは、心からの悔恨によるものだと語ったのです。
犯行は一時的な精神錯乱の発作と結論づけられました。特にリザヴェータ殺しは被告の精神能力が十分健全でなかったものとみなされました。一時的精神錯乱理論が丁度最新流行理論として裁判に適用され始めたときだったことがラスコーリニコフに幸いしました。
彼が、在学当時自分のなけなしの金をはたいて、病身の父親の面倒を見ていた肺病の学友の生活の面倒を見たばかりでなく、彼の死後もその父親を病院に入れ葬式まで出してやったという、彼に有利な証言もありました。また、もとの下宿の近くで火事があったとき、火の中に飛び込んでふたりの子供を救い出したという証人も現れました。
警察はミコライの虚偽の自白で混乱していたし、証拠も発見されず、ラスコーリニコフを犯人と疑ってもいなかったのに、（ポルフィーリーは約束を守って、嫌疑を抱いていたとは言いませんでした。）、自ら自首してきたことが勘案され、もろもろの情状酌量によりわずか八年の刑期が言い渡されました（注１）。自首してから五ヵ月後のことでした。

ラスコーリニコフの母は、裁判の始まるころから病気になっていました。奇妙な神経を病む病気でした。ラズミーヒンとドーニャは、『ある人の依頼で、ロシアの国境の町へ旅立ち、やがて富と名声を得て戻ってくるだろうと言おう』と決めていましたが、驚いたことに母は決して息子のことを聞こうとしませんでした。息子の論文を読んでは、いずれ国家的な大人物になると繰り返し言うのみでした。故郷ではあれほど彼の手紙を待ち焦がれていたのに、手紙が来ないと一言も愚痴をこぼしません。

判決の二ヵ月後、ドーニャとラズミーヒンは結婚式をあげます。寂しい、ひっそりしたものでした。ポルフィーリーとゾシーモフが出席しました。母親は喜んでふたりを祝福します。ラズミーヒンは、大学を卒業するために授業に通い始めます。ふたりは、五年後にはラスコーリニコフの監獄のあるシベリアへ移住しようと話し合っていました。
ふたりの結婚式の三週間後に、母プリヘーリヤは、熱病で死にます。熱にうかされて口走った言葉から、彼女がはたで考えていたよりはるかに多く息子の恐ろしい運命を知っていたことが明らかでした。

ソーニャはスヴィドーリガイロフが残してくれた金で、ラスコーリニコフが混じる囚人達の護送班と一緒にシベリアに立って行きます。

ある日、ラスコーリニコフは重い病気で、監獄内の病院に収容されました。
《彼はもう長い間病臥していた。しかし彼を挫いたものは、獄中生活の恐ろしさでも、労働でも、食物でも、剃られた頭でも、ぼろぼろの服でもなかった。　おお！こんな苦痛が何であったろう！　油虫の浮いた何も入っていないスープ？学生時代にはそれさえ食べられなかった！
剃られた頭や足かせを彼は恥じたのではない。彼の自尊心がはげしく傷つけられたのである。ああ、自分で自分を罰することができたら、彼はどれほど幸福だったろう！
彼は厳しく自分を裁いた、しかし彼の冷酷な良心は、誰にでもあるようなありふれた失敗を除いては、彼の過去に特に恐ろしい罪は見出さなかった。彼が恥じたのは、つまり、彼がある一つの愚かな運命の判決によって、愚かにも、耳も目もふさぎ、無意味に身を亡ぼしてしまったことであった。
現在は対象も目的もない不安、未来は何の実りももたらさない、絶え間ない無駄な犠牲、これがこの世で彼の前にあるすべてだった。八年過ぎてもやっと三十二才だから、まだ生活のやり直しができるといったところで、それが何の慰めになろう！何のために生きるのだ！彼はこれまで、もう千回も、思想に、希望に、空想にまで自分を捧げようとしたのではなかったか。一つの命だけではいつも彼には足りなかった。彼はもっと多くの生命が欲しかった。
ああ、せめて運命が彼に悔恨を与えてくれたら、―――心を引きちぎり、夢を追い払う、焼けつくような悔恨、その恐ろしい苦痛のために首吊り縄や深淵が目先にちらつくような悔恨！おお、彼はそれをどれほど喜んだだろう！苦痛と涙―――それも生活ではないか。しかし、彼は自分の罪に悔恨を感じなかった。
少なくとも、我と我が愚劣さに憤懣を感じることができたら、どんなに楽だったろう。
しかし、今、もう牢獄の中にありながら自由になってしまった彼は、自分の過去の行為をもう一度くまなく吟味し、熟考してみたのであるが、かつて運命的な瞬間に感じたほどには、それほど醜悪愚劣なものとは、何としても考えられなかった。
どこが、おれの思想のどこが、創世以来世の中にひしめきあっている無数の思想や理論よりも、愚劣だったのだ？
なぜ俺の行為が彼らには醜悪に思えるのだろう？それが悪事だからか？悪事とはどういう意味だ？俺の良心は平静だ。勿論刑法上の犯罪は行われた。法律の文字が破られ、血が流された。じゃ法律の文字の破損料として俺の首をとるがいい……だが、そうとすれば、自分の力で権力を奪い取った多くの人類の恩人達は、その第一歩において処刑されていなければならなかったはずだ。しかし彼らは自分の一歩に堪えた。だから彼らは正しいのだ。
だが俺は堪えられなかった。だから俺には自分にこの一歩を許す権利がなかった。
この一事、つまり自分の一歩に堪えられずに、自首したという一点に、彼は自分の罪（プレストｳプレーニエ）を認めていた。
彼は、どうしてあの時自殺しなかったのか？という問題にも苦しめられた。あの時、河の上に立ちながらなぜ自首を選んだのか？生きたいという願望の力がそれほど強く、克服がそれほど困難なものか？死を恐れていたスヴィドーリガイロフでさえ克服したではないか？》
自由な世間で恐ろしい苦痛や呵責に堪えてきた囚人達が、獄中でも生活を愛し、一条の太陽の光線や、深い森や冷たい泉に出会うことをまるで恋人とでも会うように空想し、泉のまわりの緑の草、藪にさえずる小鳥などを夢にまで見ていることを知って、ラスコーリニコフは驚きます。
彼をそれ以上に驚かしたのは、彼と他のすべての囚人たちの間にある越えることの出来ない深淵でした。彼らは彼を人種が違うように、不信と敵意を持ってにらんでいます。監獄内には彼らを無学な農奴として軽蔑する政治犯、元士官、神学生たちがいました。ラスコーリニコフはそんな民衆への軽蔑心など持っていなかったのに、囚人たちは彼を好かず、避けていました。「おめえは旦那だよ！斧を持って歩き回る柄かよ。旦那のすることじゃねえよ！」
囚人たちと一緒に教会に行った時、皆が一時にものすごい剣幕で彼にくってかかったことがありました。「この不信心者め！貴様は神を信じねえんだな！叩ッ殺してやる！」
彼は神や信仰について一度も彼らと話をしたこともないのに、彼を不信心者と決めつけたのでした。ひとりの囚人が逆上して彼に飛び掛ってきました。看守があわてて中にはいったので、難をのがれることができたのです。

ラスコーリニコフはソーニャにもある驚きを感じていました。ソーニャが決して神について語ることをせず、伝道らしいことを一切しなかったからです。《彼は、徒刑生活を始めたばかりの頃、彼女が、宗教で彼を悩ませ、聖書の話をしてそれを自分に押しつけてくるのではないかと考えたことがあった。しかし、まったく驚いたことには、彼女は一度として聖書の話をしようとはせず、一度たりとも彼に聖書を薦めはしなかった。》

彼を驚かせたもうひとつの疑問は、何故囚人達がソーニャをあれほど愛するようになったのか？ということでした。彼らは彼女をたまにしか見なかったし、それも彼女がほんの一目彼に会いに作業場に来たような時に、ちらと見るくらいなのに、もう誰もが彼女を知っていました。彼女が彼を追ってきたこと、どこでどんな暮らしをしているかということまで知っていました。彼女は彼らに特別なことは何ひとつしていないのに、彼らと彼女の間に親しい関係が結ばれていきました。彼女は彼らの為に家族への手紙を書いてやったり、彼らの身内の者が預けていった品物や金を機会を見つけて彼らに渡してやったりしました。
彼女がラスコーリニコフに会いに作業場に来るか、あるいは作業場に行く彼らと途中で出会ったりすると、烙印を押された粗暴な囚人たちが、帽子をとって会釈しながら、十八才の娘にこんなことを言うのでした。
「やあ、ソーニャ、おめえさんはおらたちのおふくろさんだよ、やさしい、思いやりの深いおふくろだよ！」

ラスコーリニコフの夢（注２）
ラスコーリニコフは、病院でこんな夢をみました。

アジアの奥地からヨーロッパにある恐ろしい疫病が広がっていきます。それは人体にとりつく微生物で、新しい施毛虫（注３）（せんもうちゅう）でした。しかもこれは知恵と意志を与えられた魔性でした。これに取り付かれた人は今まで決して抱いたことがないほどの強烈な自信を持って、自分は聡明で、自分の信念は正しい、自分の判決、理論、信念、信仰を絶対だと狂ったように信じるようになるのです。すべての人々が不安になり、互いに相手が信じられず、自分だけが真理を知っていると考えます。誰をどう裁いていいか、何を悪とし、何を善とするか、誰を有罪とし、誰を無罪とするかもわからなくなって、人々はつまらない恨みで殺しあいます。罪のなすりあい、つかみい、斬りあいが始まります。
軍隊が出動されますが、行軍中に味方同士の殴り合い殺し合いが始まります。警鐘がならされ、会議が召集されますが、何であれ意見が一致することはなく、火事や飢饉で、人も物も滅んでいきます。疫病はますます広がっていきます。全世界でこの災厄を逃れることができたのは、わずか数人の人々でした。それは新しい人種と新しい生活を創り、地上を更新し、浄化する使命をおびた純粋な選ばれた人々でしたが、誰もどこにもそれらの人々を見たことがなかったし、声や言葉を聞いた者もいませんでした。

この悪夢の印象からいつまでも抜け切れないでいたラスコーリニコフは、ある日の夕暮れ、病院の窓から、遠くの病院の門のそばにいるソーニャの姿を見いだします。その瞬間何かが彼の心臓をぐさっと刺した（注４）ような気がしました。彼はぎくっとして窓を離れます。その後、数日間ソーニャの姿が見えません。彼は心配しながら、ソーニャを待っている自分に気がつきます。彼はようやく退院して監獄に戻ると、ソーニャが病気だと聞かされます。

ある明るい暖かい日の朝六時頃。河岸の作業場。
《ラスコーリニコフは小屋のそばに積んである丸太に腰をおろし、荒涼とした大河の流れを眺め始めた。高い岸からは周囲の広々とした眺望が開けていた。遠い向う岸から歌声がかすかに流れていた。その向うには、溢れるほどに陽光を浴びた果てしない曠野に、見えないほどの黒い点々となって遊牧民の天幕が散らばっていた。そこには自由があった。
そしてこちらとは全然違う別な人々が住んでいた。そこでは時間そのものが停止して、まるでアブラハムとその羊の群れの時代がまだ過ぎていないようであった。》
不意にソーニャがやって来て、そっと彼のそばに腰を下ろしました。彼女は古いみすぼらしい外套を着て、緑色のショールを被っていました。彼女はいつも押しのけられないかと恐れるようにおずおずと手を差し伸べます。彼はいつも嫌そうにその手をとるのでした。怒ったような顔をして、どうかすると会ってもはじめから最後までかたくなに黙り込んでいることさえありました。
《しかし、今は二人の手は離れなかった。彼はちらと素早く彼女を見ただけで、何も言わずに目を伏せた。彼らは二人きりだった。看守はそのとき向うを向いていた。
どうしてそうなったか、彼は自分でもわからなかったが、不意に何ものかにつかまれて、彼女の足下へ突き飛ばされたような気がした。彼は泣きながら彼女の膝を抱きしめていた。
最初の瞬間、彼女はびっくりしてしまって、顔が真っ蒼になった。だが、一瞬にして、彼女はすべてを悟った。彼女の両眼にははかりしれぬ幸福が輝き始めた。彼が愛していることを、無限に彼女を愛していることを、そしてついに、そのときが来たことを、彼女は悟った。もう疑う余地はなかった………..
二人は何か言おうと思ったが、何も言えなかった。涙が目にいっぱい溜まっていた。二人とも蒼ざめて、痩せていた。だがそのやつれた蒼白い顔にはもう新生活への更生、訪れようとする完全な復活の曙光（注５）が輝いていた。愛が二人を蘇らせた。二人の心の中には互いに相手を蘇らせる生命の限りない泉が秘められていたのだった。
二人は辛抱強く待つことを決めた。彼らにはまだ七年の歳月が残されていた。それまでにどれほどの堪え難い苦しみと、どれほどの限りない幸福があることだろう！だが彼は蘇った。そして彼はそれを、新たに生まれ変わった彼の全存在で感じていた。では彼女は、―――彼女は彼の生活をのみ自分の生きる糧としていたのであった！》

その時から、ラスコーリニコフは彼を見る囚人たちの目が変ってきたように感じます。
彼の方から囚人たちに話しかけてみたり、彼らの返事も親しさが増してきたようです。彼は、絶えずソーニャを苦しめ、苛んできたことに思い至ります。しかし、今はもうその思い出も彼を苦しめようとはしませんでした。彼には、彼女のすべての苦しみに自分がどんな愛で償おうとしているかわかっていたからです。
《それにこのすべての、過去のすべての苦しみが何であろう！一切が、彼の罪（プレストｳプレーニエ）でさえ、判決と流刑でさえ、今はこの最初の感激で、外部の不思議な出来事のような気がして、何か他人事のようにさえ思われるのだった。彼は、しかし、その夜は長く続けて何かを考え、何かに考えを集中することができなかった。それに彼は意識の上では何も解決できなかったに違いない。彼はただ感じていただけだった。弁証の代わりに生活が到来したのだ（注６）。そして当然意識の中にも全然別な何ものかが形成されるはずであった。》

《彼の枕の下に福音書が置いてあった。彼はそれを無意識に手に取った。この福音書はソーニャのもので、いつか彼女が「ラザロの復活」を読んでくれたあの本だった。》
《彼は今もそれを開きはしなかったが、一つの考えがちらと頭に浮かんだ。『今は、彼女の信念がおれの信念でないなんて、そんなことがあり得ようか？少なくとも彼女の感情、彼女の渇望は………』》
《ソーニャも一日興奮していた。彼女はあまりに幸福すぎて、自分の幸福が恐いような気がした。七年、たった七年！自分達の幸福の始めごろ、時々、二人はこの七年を七日と思いたいような気持になった。彼は、新しい生活が無償で得られるものでなく、もっともっと高価なもので、それは今後の献身的行為で贖われなければならぬことに、気がついていないほどだった。》
《しかしそこにはもう新しい物語が始まっている。一人の人間が次第に更生していく物語、その人間が次第に生まれ変わり、ひとつの世界から他の世界へ次第に移って行き、これまで全く知らなかった新しい現実を知る物語である。これは新しい作品のテーマ（注７）になり得るだろうが、―――この物語はこれで終わった。》

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注１：	八年の刑期１８７１年のロシア刑法、 ①突然ではなく、予め熟慮された計画的故意の殺人；１５年から２０年の徒刑 ②故意だが予謀なしの突然の衝動による殺人；　１２年から１５年の徒刑 ③激情あるいは興奮による殺人；　４年から１２年の徒刑またはシベリア移住ラスコーリニコフの犯罪を裁いた１８６０年代は刑期がもう少し短かったようです。①１２から２０年、②４から１２年。（１８４３年刑法大全）精神的疾患が減刑の対象とされ始めた時代でもありました。自首は当時の刑法典でも代表的な刑罰減軽事由でした。（一四〇条一・二号）。死刑は皇帝暗殺だけに適用されました。民衆が犯罪者をどう見ていたか？ドストエフスキーの「死の家の記録」は書いています。《民衆は、その罪がどんなに恐ろしいものであっても、罪の故に囚人を決して責めない、そして囚人が背負わされている罰と不幸な境遇ゆえに、囚人を許しているのである。ロシアのすべての民衆は犯行を不幸と呼び、罪を犯す者を不幸な人と呼んでいる。》
注２：	ラスコーリニコフの夢これは、ヨハネの黙示録とマタイ福音書第二十四章の世界です。《民は民に、国は国に敵対し立ち上がるだろう。あちこちに飢饉がおこり、地震があるだろう。しかし、すべてこれらは産みの苦しみの初めである。不法がはびこるので、愛は冷える。しかし、最後まで耐え忍ぶ者は救われる。天地は滅びるだろう。しかし私の言葉は滅びることがない。その日、その時は誰も知らない。天の御使いたちも、またその子も知らない、ただ父だけが知っている。》
注３：	施毛虫施毛虫、これを人は「傲慢」「利己主義」「近代合理主義」「悪霊」と様々な言葉に置き換えて説明していますが、「ラスコーリニコフ的精神」であることに間違いありません。「ラスコーリニコフは『思想』であり、同時に『街路』である。彼の悲劇は一つの精神の悲劇である。だがもし『思想』の『街路』への移行が一つの自覚の範囲を超えて、二つ、三つ、百、千の自覚がこの過程に巻き込まれるとしたら、何が生じるだろうか。ドストエフスキーは、この問題をこの終末論的夢の中で展開したのである。」（Ｉ.ヴォールギン）
注４：	何かが彼の心臓をぐさっと刺した。終末論的夢によって自分の罪の深淵を覗き込んだラスコ－リニコフが、窓からソーニャの姿を見た瞬間、何かが彼の心臓をぐさっと刺した。つまり、この瞬間、彼は死んだのです。だから、彼は復活することができたのです。不意に何ものかにつかまれて、彼女の足下へ突き飛ばされたような気がした。復活はその何ものかの力によってなされたのです。